ベテラン種牡馬パイロについて、今更ながら考えてみたいと思います。

後述しますが入会クラブで気になる産駒募集馬がいるため、データを集計してみることにしました。
いつも通り、種付け実績や相性の良いBMSを見つつ、パイロの傾向を探ります。なかなか尖った種牡馬で、他の種牡馬とははっきりと特徴が異なっています。興味深い種牡馬です。
種付数&種付料の推移
| 年度 | 種付頭数 | 種付料 |
|---|---|---|
| 2020年 | 141頭 | 250万円 |
| 2021年 | 126頭 | 250万円 |
| 2022年 | 131頭 | 300万円 |
| 2023年 | 70頭 | 400万円 |
| 2024年 | 74頭 | 400万円 |
| 2025年 | 85頭 | 400万円 |
賞金上位100頭の母父内訳
パイロ産駒の賞金上位100頭(総賞金3139万円以上)の、母父馬について頭数別に内訳を出したものがこちら。
| 頭数 | 母父名 | ||
|---|---|---|---|
| 5頭 | クロフネ(34) | フジキセキ(45) | |
| 4頭 | サンデーサイレンス(22) | ||
| 3頭 | キングカメハメハ(30) | ゴールドアリュール(27) | タバスコキャット(5) |
| ダイワメジャー(19) | ダンスインザダーク(32) | ディープスカイ(12) | |
| 2頭 | シアトリカル(5) | アンブライドルズソング(12) | アグネスタキオン(30) |
| アドマイヤマックス(8) | コマンズ(11) | コロナドズクエスト(6) | |
| シアトルスズカ(3) | シンボリクリスエス(23) | ジャングルポケット(9) | |
| タイキシャトル(12) | ティンバーカントリー(5) | ネオユニヴァース(23) | |
| ブライアンズタイム(15) | マンハッタンカフェ(25) | ワイルドラッシュ(3) | |

1頭は省略。母父名カッコ内の数字は3歳以上の該当馬数の数字です。たとえば父パイロで母父クロフネの現3歳以上の該当馬は34頭。そのうちの5頭が賞金トップ100内にいることを意味しています。
さすがのベテラン。新旧さまざまなBMSがズラリですな。
16年目のベテランサイアー
データ考察に先立って、まずパイロの現役時代についてちょろっと触れます。
G1勝ち星は4歳時のフォアゴーステークスのみ。ほか重賞制覇はルイジアナダービーやリズンスターステークスなど、アメリカのダートマイル前後を中心に活躍。

5歳いっぱいで引退となり種牡馬生活入りとなりました。
もう2025年で種牡馬生活16年目。大ベテランですよ。

現役も怪我なく終えたようですし、種牡馬生活も安定した供給を行なっていますし、丈夫な体質なんでしょうね。
私、てっきり引退直後はアメリカで種牡馬生活を送り、数世代の後に日本へやってきたと思っていました。引退後直行で日本だったんですね。ただアメリカ現地ではかなり惜しまれたようです。貴重なプルピットの子ですからね。
ダーレーバイアス
さて日本での繋養先はあのダーレー・ジャパン。

クセ強な種牡馬ラインナップとして定評のあるスタリオンです。
日本国内で活躍している産駒もダーレー多め。よって、母父もかなり偏っていたり、活躍傾向もかなり尖っていたりします。

たとえば先ほどの母父内訳の通り、父パイロで母父ディープスカイは12頭いますが、このうち8頭がダーレー生産。これはパイロもディープスカイもダーレーが繋養先であることに由来します。
正直パイロは地味めな種牡馬で、日本ではダート極振り系種牡馬は敬遠される傾向にもあるため、輸入直後は優秀なお嫁さんは集まらなかったと考えられます。
しかし身内のダーレーだけは別。初年度から期待できる牝馬にバンバン付けたと思われます。

そうやって良い牝馬につけて産駒が結果を出すことで、種付実績を上げていく中期的な計画があったのだと思います。
この目論見は概ね達成できたのではないでしょうか。大きく跳ねることはなくとも、ここまで安定した種付け推移を成し遂げ、ダーレーへの貢献度合いは高いといえるでしょう。16年目になってもなお、400万円の種付け料で約80頭に付けられているのですから。

その一方で私たち外側の人間は、ダーレーのこの戦略によってパイロ本来以上の実績や取引市場が形成されたのではないかと、ある種懐疑的に見るべきだと思います。
ダーレーの後押しによって、本質以上の価値が生み出される。私はこれを「ダーレーバイアス」と呼んでいます。今さっき名付けただけですけど。

つまりダーレーの種牡馬はより慎重に評価するべきなのね。

ですね。同じような現象はビッグレッドファームの種牡馬でもよく見られます。
とはいえこのパイロについては、何度も言う通り安定した成績を誇っており、やや例外かもしれませんね。しかもかなり際立った傾向があるので、考察はしやすいと思っています。

むしろダーレーが自分たちの擁するクセ強な牝馬とたくさん付けているおかげで、パイロの持つ本質的なポテンシャルを見出すくしてくれているともいえます。
同母による上位ランクインが多め
というわけで改めて冒頭の母父内訳を見てみますと、ダーレーバイアスの対象を何頭か見つけることができます。

たとえばアンブライドルズソング、コマンズ、コロナドズクエストあたりは、同母ダーレー生産馬が名を連ねています。
ただ正直いずれも大当たりな配合にはなっていない印象ですよね。ちなみにアンブライドルズソングとコロナドズクエストはミスプロ(ミスタープロスペクター)系、コマンズはデインヒルの系譜。いずれも「まずまず」といった活躍、強いていえばコロナドズクエストが良さげ。
サンデーサイレンス系牝馬とは微妙!
これは今回データを取ってみて意外でした。

ダーレーバイアスの母父ディープスカイはまだいいものの、ほかのサンデーサイレンス系牝馬との子は微妙な成績となっています。
アグネスタキオンは対象が30頭いて上位100位以内は2頭。フジキセキは45頭中5頭。ダイワメジャーは19頭中3頭でまだいいほう。ダート系種牡馬のゴールドアリュールでさえ27頭中3頭とあまり冴えず。
サンデーサイレンス自身とは22頭中4頭でまずまずいいですが、これはアメリカ血統が近いところにあるためでしょうか。つまり日本生産の牝系が重なるほどに活力が弱まっているように感じられます。

国産牝馬とはあまり相性良くないんだろうなと思ってましたが、これほどとは驚きました。
その中で出てきたメイショウハリオ(母父マンハッタンカフェ)は極めて例外。しかしこの例外がマンハッタンカフェ肌馬というのは納得感がありますね。シニスターミニスターもそうだし。

ただし母父ディープインパクトとの相性はまだまだ検討の余地はありそうですね。まだまだサンプル数が少ないです。
シンボリクリスエスやキングカメハメハとも微妙だぞ!
日本のMBSランキング上位に長く君臨しているシンボリクリスエス(23頭中2頭)やキングカメハメハ(30頭中3頭)とも大きな成果を上げることはできていません。
もう少し拡大してみると、ミスプロ系はまずまずでも、ロベルト系はからっきしなんですよね。ブライアンズタイムともそこまでいいわけではないし。

SSもキンカメもシンクリもいまいち。なら何ならいいのよ!?って感じですよね。
どうもかなりニッチというか、特定の配合で結果を出せているみたいですよ…。

代表例としては母父ワイルドラッシュ。ワイルドアゲインのクロスが発生、対象馬3頭とも期待以上の走りができています。
シアトリカル〜シアトルスズカの怪
そして注目したくなる種牡馬がシアトリカル。

ヒシアマゾンの父として有名ですね。
父パイロで母父シアトリカルの対象馬は5頭いて、その内の2頭がトップ100以内。しかもどちらも1億円以上を稼いでいます。

ただしこの2頭は同母チャームエンジェル。母の影響力が大きかったともいえます。
さらにデータを探るため、シアトリカル産駒で国内種牡馬となったシアトルスズカにも目を向けます。こちらは3頭いて2頭がトップ100以内。残る1頭も3000万円以上を稼いでおり100位以内まであと一歩でした。

ただこちらも同母グランドホイッスルによるものとなっています。
しかしシアトリカル〜シアトルスズカという、決して日本では繁栄していないサイアーと突出した成績を出せている点は目を見張るものがありますね。
特定のちょっとマイナーな肌馬と相性がよく、同母での活躍が目立っている。それがパイロなのです。

ちなみこのシアトリカルは遡るとヌレイエフ、ノーザンダンサーの系となります。というわけで…!
ノーザンダンサー系は◎
ノーザンダンサー系との相性がいいことは母父タバスコキャットからうかがえます。5頭中3頭が100位入り。

しかもこちらは異なる母からの輩出です。
数が少ないため今回の集計の対象外にはなりますが、テイルオブザキャットやフォレストワイルドキャットといったストームキャット系種牡馬が母父でも上々の実績。ただし活躍の場は完全にダートに絞られる模様。

日本の上位BMSと相性が微妙な分、ノーザンダンサー系牝馬との産駒に回収率の高いタイプが多いようです。数が少ないので目立っていませんが。
気になる2023年産パイロ産駒
| 馬名 | 母父 | 一言 |
|---|---|---|
| クリムゾンプリンス | ディスクリートキャット | すでに地方3勝、ダーレーぽい配合だがパカパカファーム生産 |
| エイシンミラーミ | ヨハネスブルグ | すでに地方2勝 |
| アンミックス | ヨハネスブルグ | 遠縁にサクラバクシンオー |
| サザウキ | キングカメハメハ | 遠縁にアメリカンボス |
| ファイアプレイス | ディープインパクト | ダーレー生産、母は2勝馬 |
| ローズオブジャパン | ディープインパクト | ダーレー生産、遠縁にシンエンペラー |
ストームバード系牝馬との産駒が中心。ヘニーヒューズ牝馬との子はこの世代にはいませんでした。
ミスプロ系牝馬とも1頭あげたく、ここでは母父キングカメハメハのサザウキまで。ただキンカメはそこまで相性がいいわけではなく、意外なミスプロ系牝馬の子から大物が出そうな予感はします。
ディープインパクトは先物取引的な位置付け。とくにダーレー生産馬は良血のディープ肌馬との子が多く、力を入れている気がするので、毎年気にかけたいところ。

母父ワイルドラッシュは面白いと思っているのですが、今後誕生する可能性は低いか…。
クラブで募集中のパイロ産駒
クラブで募集中の2024or2025年産のパイロ産駒ですが…1頭しかいないようですね。

入会しているユニオンのルミナスソードの2024です。
この子こそがまさしく今とても気になっている募集馬。

そして今回の考察によって、さらに出資確度を高めることができました。
母ルミナスソードはミスプロ系。母父キャンディライドはBMSとしてラーゴムなどを輩出。

ミスプロの4×6×5。母方を遡ればストームキャットもいて、今回の考察からも相性バッチリではないでしょうか。
そしてルミナスソード自身の繁殖としての実績も優秀。
これだけ材料が揃っていれば、とりあえず1口出資してみたくなりますね。

というわけで出資確定!
まとめ
日本のBMS御三家ともいえるサンデーサイレンス・シンボリクリスエス・キングカメハメハとまったく相性がよくないパイロ。
それでもこれだけ日本国内で結果を出せているのですから、凄まじいポテンシャルを秘めた種牡馬といえます。
こういった癖の強い種牡馬というのは、有名どころのサイアーの影に隠れやすい穴種牡馬ともいえ、投資面では回収率の高いタイプが多いのではないかと思います。

もう20歳を超えているので、種付けできる世代はあとわずか。その中から更なる大物が輩出されてほしいですね。
ルミナスソードの2024がその1頭であることを願って、今回の考察を終わります。
パイロの記事はまた何年か後にやってみたいですね。それまで現役を貫いてくれているといいなあ。
